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今日は夏の計画を立て直そう。

もう8月だ。早いものだ。

夏休みは残り4週間である。

今日からの講習は今まで会ったことがない講師がつく。

どんな人だろうか。

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その講師は若かった。

見た目は兄と同じくらいの年齢だ。兄は私より9年分年上である。背丈も同じくらいだ。少し長髪気味で、男にしてはいくらか声が高めである。

今までと比べるとかなり明るい話し方で、進め方もまずまずといえる。とりあえず初日の評価としては○。

この講座、今日のところは自分を含めて6人しか生徒がいない。

こんなものなのだろうか。

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帰りに、親から参考書代としてもらった1万円を握って、ほとんどお釣りが来ないほど参考書を買った。

最近、こうやって紙袋一杯の本を買うことに大して何も感じなくなった。慣れというものは恐ろしい。本に1万円以上かけるのも最近ではそう珍しくもない。

もちろん買った本はちゃんと使っている。

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紙袋を持つ手を時々左右交互に持ち変えながら駅に向かっていると、またいつものように宣伝マンみたいな人が待ち構えている。だが今回は逃げ切れなかった。私の犠牲のおかげで助かった人はそのまま流れるようにどこかへ行った。謎の男に捕まってみると、このおじさんは宣伝ではなくアンケートをとっていた。たちの悪いことに、興味ないし忙しいからどけという態度で突破しようとしても、一般人の常識的な態度の限界では並大抵の努力では突破出来ない。謎の男は幼い子供のように私の行く先に立ちはだかる。しょうがないからこの謎のおじさんに協力してやった。

アンケートの内容は大体映画に関することだった。

洋画と邦画のどちらが好きかとか映画を観に行くとしたら何人がいいかとか、ポケットマネーはいくらだとか何歳だとか。

そんなくだらないことを聞いて一体何をするというのか。

しかも一度捕まるとしつこくて逃げられない。少し前に同じアンケートに捕まったことがあった。

謎の男が持っている紙切れを、捕まってから最初に見たときに、同じアンケートだと気付いてもう受けたと言って振り払おうとしたが、向こうは、いいじゃん、と馴れ馴れしく言って立ちはだかる。

次見かけたら蹴りの一つでもいれてしまいそうだ。なんとか見かけないようにしたい。

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祖父の様子には今更驚かない。

もう何でもありだ。

この前に医者に診てもらったときも日々の睡眠薬が原因でほとんど何を言っているかわからない発声をしたものだからろくな診断を受けずに帰って来た。確かボケだと勘違いされていた。当の本人は、どの医者もろくな人ではない、生意気だ、などと言っている。

一応書いておくと、祖父は頭はおかしくない。東大出た後も色々と研究したとかで博士号もとっている。最近までだってこうなる前までは英語も使っていたし、私にアドバイスをくれることもあった。実際のところ、80歳を過ぎていても身内で一番頭はいいくらいだった。

それがどうして寝たきりに近い生活をするようになったものだろうか。

いや、むしろ理由がわからない訳ではない。理由がありすぎて訳がわからないのだ。

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最近、夕方になると近所の犬が煩い。

吠えすぎだ。犬自身も気が狂っているんじゃないだろうか。

そろそろ麻酔銃か何か持って来て撃ってやろうか。

母がヴァイオリンの練習をしている時間帯にはそいつは暑さでくたばっているらしい。

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目が疲れやすい理由がわかった。私は実際に視野が狭い。ほとんど黄斑の部分だけでものを見ている。別に緑内障ではないが、見ようとした部分しか識別出来ない。この識別可能範囲は対象が目から30センチくらいの距離にあるとき、注目点から半径1~2センチくらいだ。この携帯で言えば、「W31S」の印字を見ると「au byKDDI」の印字が、視界にあるにもかかわらず識字出来ないのだ。

この一点集中型の視界は、ものを見るとき、特に注意を払わなくても細かい傷や埃までトレースする。だがその分余計に目に負担がかかるらしい。

それに普段の大抵の場面では不便だ。おかげで小説の速読は出来ないし、道を歩いていて近くを知人がすれ違っても気がつかないことさえある。楽譜を読むときもほとんど記憶から読み出している。私が演奏可能になった曲というのは、急に楽譜を取られてもある程度全体的に演奏出来てしまう場合が多い。

一点集中には一点集中の利点があるといいのだが、全体を見る目も欲しい。このままではいつか事故にでも遭ってしまいそうだ。

……この目は小学生の頃には既にこうなっていたと思う。そしてその原因は……。

……。

また彼奴か。

結局、善かれ悪かれ兄に帰着する。

まぁそうでなくてもどこかでこの性格、性質、視野、精神が形作られた可能性はあるという風に言われることもあるだろうから、表面上はそういう事にしておく。絶対そんなことはないだろうが。

彼奴と話すことはまずないが、話す時になっても私は毎回ほとんど完全に違う人格、概念を模倣している。相手が変わらない限り、絶対こちらも変わらない気がする。相手も実際、人格を無理に変えているから本質は保守されたままで変わらないだろう。

他の家庭では我々のような関係は滅多にないのではないだろうか。10年近く年齢に格差があり、かつ先に生まれた側の性格が感情の影響を強く受けているとこうなることがある。

まさか俺の感情が押し潰されるとはな……。

両者は競合し、そして常識の範囲を超えて潰されあう。

まぁ今回の目の場合は脳の側の障害だから時間をかけて治していくことも出来るはずだ。

そう気にすることもあるまい。

暇なときに少し、全体を、遠くを、見る練習をしよう。

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