親族の仮面

今朝起きてすぐに朝食をとっていると、母がまた祖父についての愚痴をこぼした。

「今朝何か言いたそうにアーアー声を上げていたから何かと聞いたら、夜中に北方の人がデモ運動しに来たって言うんだよ。家の中に入って来たって言うから何故と聞くと、そこが妙なんだよねとか言って。やっぱり睡眠薬飲んで寝たきりは頭が馬鹿になる!」

……。

適当に相槌をうつぐらいしか私には出来なかった。同情は出来るものの、私には何も解決出来ず、ただ心労が増えるだけなのは誰もわかっていない。こういうのはいつもの事である。でも北方というのは少し可笑しかった。祖父は戦時、外国に捕虜に捕られた経験があった人だ。

昼には珍しく兄が来た。

昼食と後のコーヒーに参加していた。母はよく兄を昼食や夕食に誘っているらしい。しかし兄も忙しいものでそう滅多に来ることはない。

「昨日の演奏は大好評だったんだよ」

母は昨日の夕食の時に私と祖父に話したことを繰り返す。

「プロみたいな演奏を有り難うと言われたんだよ。プロでやってるんだけどねって一緒に演奏した人と話した。」

私は昨日はありふれた言葉しかかけることが出来なかった。何故こんな喜びにもっと気の利いた言葉をかけられないのだろう。私の内心がどうかしてしまっている。

昨日の話では、共に演奏した人は成人したその人の息子から花束を受け取っていたなんて話があったが、これは兄を呼んだ場では唯一話題にならなかった。

母が兄に何か話す時の態度は、私に話す時のそれとは全く異なる。小学生の頃から、まるで兄に対してはどこかの偉い人か何かに話しているようだと思っていた。何と無く恐ろしいような気がして理由を尋ねたことは一度も無い。聞いてしまうと、真実の母が消えてしまうかも知れないと感じたからだ。

母の祖父に対する話し方は、あまり私に対してのそれと変わらないが、これも少し異なる。父に対しては一番自然だったはずだが……よくわからない。結局、真実を見られる可能性があったのは祖父か祖母か私か父だと思うのだが、ここで私が不安定か頼りないとすると、母にはついに話し相手というか居場所が無く感じられるに違いない。

ふと視界にある写真を見た。

この家は、二階には父と祖母の写真があり、一階には祖母の写真がある。毎朝毎晩、見ることになる。

「お母さんを、しっかり支えてあげるんだよ」

「あなたは、泣いてはいけない」

「これから大変だよ」

沢山の、私を見つめる目。

残りは皆無言で、私の動きを待っているかのようだ。

気付くとそこには、選択肢は無かった。

私は、躊躇しているのだろうか。

良い人になりたいと願ったことなら何度もある。なのに何故、何も出来ないのか。いつになったら……。

何も出来ない、何も出来ない、と言い、本当に何もしない。そんな一番嫌いな人間が、私だ。私に出来ることは、私に出来ることを探すことでしかない……。原因不明な言動は強い記憶に残し、全ての後の言動の参考にするしかない。

ここで区切ってもうひとつ、話を書くか迷ったが、あまり時間が無いから次回に延期することにしよう。書く予定でいるのは、目指すものについてだ。でももしかしたら時の気分で内容はがらりと変わるかも知れない。

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