同窓会

十三日は、予備校を終えると、そのまま例の駅へと向かった。

決められた時刻より丁度十分早く着いた私は、しばらく南口と北口の改札を行ったり来たりしながら改札周辺の知人を捜した。

しかし焦りもあってどうにもわからなくなって、K君に何口かとメールを送ったら、南だよと返ってきたので徐に南口を出てみた。

しかしそれでも私は周囲を見渡して、知人を発見できずにいた。

そんな私へ、少し離れた広場にいた同窓生から声がかかり、漸く皆と合流することができた。

男子は多少の変化はあるものの、基本的に殆ど皆昔と同じ雰囲気のままだったため、一瞬は考えはしたが、すぐに誰だかはわかった。

一方、我々より少し離れたところで盛り上がり始めていたグループは、二、三人は昔の面影があって誰であるかはわかったが、

徐々に増えていった人の中には、誰であるかさえわからない人も出てきた。

男子側ではあの人は誰だ、などと囁かれ始め、先生まで私にあの人は誰、などと聞いてきた。私はすみません、と返した。

大体二十人程度集まったところで店へ移動し、適当に座って軽く食べ物をつまみながらお喋りをした。

適当に座ると言っても、友人はやはり隣にということになると男組、女組とわかれてしまった。

いや正確には、私などの、人付き合いの経験がない者にとって、積極的にいろんな人と話すのがどうも上手くいかないのである。

仕方がないので、一部で非常に盛り上がっている会話に脇目を振りつつ、先生や友人と、大学の話や予備校の話、将来の話や人生に関する話などを話した。

しかし次第に、私は、私と友人が三人だけで社会から孤立しているような感覚を覚えた。

私から見れば、部屋は二極化しており、我々が細々と話しているグループと、盛大に何か盛り上げているグループとが存在しているようだった。

そこで途中から私は友人に対して、あまり浮くのはまずい、とりあえず移動しないか、と必死の勧誘を始めた。最近の私にしてはかなり珍しい言動だろう。

ところが友人二人はいいよここで、とか、君が勝手に移動して良いよ、とか、こっちだってそれなりに盛り上がってるんだから、などと言う。

しかし私一人で移動すると何か変だ。と私は思った。何が変なのかは自分でも良くわからなかったが、とにかく変だと思った。

私の後ろの方で盛り上がってた側にいた友人が時々、我々の事を話にあげてくれたので、それを期にいざ、と思ったが、やはり私一人では何か移動しづらかった。

そうこうしているうちに、友人二人のうち一人がトイレへ行く、と席を立った。

その瞬間だった。私は残る友人が一人であることからある計画を閃き、実行に移してしまった。

“この時、私のグループには私と残った友人一人しかいない。先生は特殊な立場にあるから、単独行動が自由である。

つまり、私がここで席を立てば、残されるのは一人だけになる。そうなるのを恐れ、必ずその一人は私についてきてくれる。

そしてトイレから戻って来るであろう友人に面白いトラップを仕掛けることにもなる。そしてその友人もこっちに必ず来てくれるであろう。”

早速その残っている友人に、「彼をはめるチャンスだ、移動して一人にしてみよう、さあ」と呼びかけ、さらに、突然移動するのがやはり気が引けてしまった私は、

できる限り私としては不自然にならないように、後ろで盛り上がっている友人に、一応そっちへ行ってもいいかと聞いてから、ついに移動を開始した。

行ってもいいかと聞くときに断られないことはわかっていたが、しかし何か言わなければ私は動けなかったのである。理由は私にも良くわからない。

友人は一度、「え、彼いいの?」と笑いながら聞いてきたが、もちろんそれも狙いであるから、「いいんだよいいんだよ」と返した。

案の定、ふらふらと、残る友人も後についてきた――が、突如視界から消えた。彼は足を踏み外して盛大な転びを見せてくれた。

挨拶はそれで十分だった。いや、そんなことはないのだろうが、ひとまず移動できただけで私は満足だった。――そろそろ彼が戻ってくるだろう。

先生もちゃっかりと私が移動したグループへと移動してきていた。私にはそんな風に自然に振る舞える人格はない。

少しすると、彼が戻ってきた。机四つのうち、彼がいた机には誰もいなくなっているのを見て、次ぎに我々の方を見、

「おまえらよくも~~裏切ったな~~」とお決まりの調子になってくれた。すぐに彼は我々の方へ来て、そしてめでたく浮き組を解消できた、つもりである。

元々は私自身が浮き組主格みたいな存在だろうと私は思っているので、ここまででとりあえず上出来だと思った。

この程度が精一杯な人間も世の中には居るのである。

さて落ち着いてみると、今後の行動について二手に意見が分かれていた。

ボーリングをやりたいというのと、川へ行って花火をやりたいというものである。

正直に言えば私はどちらでも良かったが、どちらかと言えば花火の方が皆でやる甲斐がある気がしていた。

また、企画進行を進めてくれている方の予定に従うべきだろうとも思っていた。

一時は解散しそうにもなったが、最終的には、それ程時間を要せずして全員花火行きに落ち着いた。

ここの食事代については、私が気付けばいつも「、中生。」とオーダーを出していた先生が奢ってくれて、そのおかげで大分安くあがっていたようである。

ちなみにここまでは、先生以外は誰も酒は入っていない。

そして店を出ると、すぐに先生は一人先に帰ってしまった。

ここで、我々は、まだ遅れて参加してくる人を待ち受ける役と、花火買い出し役と、飲食物買い出し役に別れた。

私は待ち受け役の側にいたが、その間、自らいじられていく人がいたり、気がつけば暴露コーナーになっていたり、後から参加してきた人が片腕で持ち運ばれたり、

適当な雑談をしたりしていた。

やがて買い出し役が戻ってくると、我々は川へと歩き始めた。

歩いている途中でも私はある程度浮いていた。何故……。絡み属性がないからだろうか……。

やがて川へ着くと、さらにまたそこで参加してきた仲間に出会った。ただ、今回はこれまでの男子組とは違い、昔とは大きく異なった人だった。

「月が怖い!」

誰かが叫んだので対岸の方を見やると、少し欠けた赤っぽい月が出ていた。

川岸の適当な広場で落ち着くと、一度精算を行い、それから、今回の同窓会の始まりとなる掲示板を立てた友人を中心に、乾杯をし、後は皆ばらばらに好きな行動をとりはじめた。

私が手に持っている缶を良く見ると、お酒とはっきり書いてあった。私は全く一滴も飲んだことがないわけではないが、しかし…。

私は、”普通に缶一杯を飲む”ということは経験が無かった。精々ワイングラス一杯分くらいの経験しか無かった。

一瞬躊躇したが、私は普段の自分があまりに喋らなくて行動が少なくて浮いてしまうことを思い、少しずつ飲み始めた。

――多少酔えれば、私もそれなりに行動力が上がるのではないか――

ある種の賭けでもあった。むしろ何もしなければ、私は恐らく川岸で座って花火見物あるいは寝てしまうかも知れない程浮いてしまう可能性があった。

私にとってはそれが最大の恐れだった。

噴出花火に火がつけられ始める。

「夏だねぇ」

「わー」

私は写真に撮りたいなと思った。自分の記憶に焼き付けておいた。

一本を飲み終わる。全然普通だった。でもどこか、行動一つ一つに、自分が無理している感がある。これでは駄目だ。さあ二本目。

少し酔ってきたような気分がした。そろそろ丁度いいだろう。では三本目。

……良かった、自分が無理をしなくても、体が勝手に遊んでくれる。ここまでで十分だろう。さあ、派手な花火を。

持つなと書いてある花火を手に持って、降りかかる火の粉も平気だった。

噴出花火も手に持って歩き回り、打ち上げ花火も手から打ち上げた。

ただ、周りを気にする能力が大きく削がれていることに気付き、時々屈んでは呼吸を整えて、できる限り冷静に暴れようとし始めていた。

普段の私ではいけない、そして普段の私でなければいけない。

少しして気付いたが、お酒というものは飲んでから酔いの効力が完全に発揮されるまで五分以上かかるようである。

だから、私は二本目までのお酒の効き目が完全に出る前に三本目を飲み、三本目を飲んだ直後は普通の酔いだったのが、しばらくして少し酷くなっていた。

しばらくすると、足下が大分ふらつき始めた。しかし平衡感覚が無くなってしまうのではない。突如正常な平衡感覚に戻ったりもする。

数秒間隔で平衡感覚が何回も向きを変えているような感覚である。

私は漸くどこかへ絡んでみたい気分になった。

しかし酔っているとはいえ、それ程行動の自由が効くわけでもなく。

でも女子とは絶対に話せそうにはなかった私でも話しかけたり、話しかけに応じたりするくらいはできるようになった。要は、私は話したかったのである。

ところが気がつくと暴露コーナーになっていて、しかも何故か私が暴露することになっていた。どういう流れだっただろうか……。

昔好きだった人がいるのならそれを暴露する、というものだった。

確かにいた。だが……。近い……?笑い話で終わる……?いや……。

Mul「当ててご覧」

そして、次々と聞かれては、いいやと返していった。ただ、私は最初の人を否定したときに、何故その人があがったかを一瞬考えて、もうばれているような気がしていた。最初の人は確かに違うのだが。

A「ところでその人って今日ここにいるの?」

Mul「いるよ」

私は酔っていた。女子は十人程度しかいなかったことに気付いていない。

A「あれ?もう大体あげたよね」

Q「え?」

Mul「あーもう、この辺にしておこう、ははは」

G「そうだよ、もうやめようよ、俺は味方だっ」

Mul「はぁ……」

この辺りで、私は酔ったときのもう一つの異常に気付く。

ある特定の人以外は誰であるかをはっきりとは把握しなくなり、不特定多数に対するかのように呼びかけてしまうことがあるようだった。

私の周辺にいた人の六~十人前後を把握し、後は良く見ていなかったように思う。

ただ単に辺りが暗かったせいなのかも知れないが、なんとなく、それだけではないこういった異常があったように思えた。

「K君が!K君がやばい!」

Mul「…え?」

一人泥酔している友人がいた。

Mul「水…!水はありませんか…!」

水を飲ませて良いのかどうかは私はよく知らなかった。ただ、本人が求めていたから一応。

そうこうしているうちに、夜も深まり、翌日のスケジュールが埋まっている人は帰り始めた。

……まだ手持ち花火がたくさん余っている。……ならば。

私は片手に三本、もう片手に三本の手持ち花火を持って火を付け、上にあげたまま歩いてT君に話しかけようとして近づいた。

T「なんか怖い!」

すっかりあの特殊なイメージを一瞬思い出してしまった。小学生の頃の私の……。

花火も大分尽きてきた。残りは線香花火とかだろうか。

「ゴトゴトッ……ボチャン」

「K君!!!!!!!!!!」

――川に落ちた人がいた。

私も急いで駆けつけた。

川といっても、ボートが並べてある領域に墜落したのだが、一応浅かったらしい。本人は既に立っていた。

だが……。

K「どうして?どうして川に落ちてるの?何があったの?ねえ?どうして?ああ、もう!」

K君は錯乱していた。

私は私自身の酔いをある程度気力で消した。

私はもう一人の友人と一緒にK君を引き上げようとした。

K「自分であがれるから!もう!どうして?!なんで落ちてるの?!」

M「あ、あがってくれ……。」

Mul「彼どうなってた?」

G「俺も良く見てないんだけど、なんかいきなり近くを猛烈な速度で走っていって、川に飛び込んだように見えた」

Mul「…は?w」

G「あいつやばいってまじで」

その後のK君は横になったり、起きれば錯乱状態になり、最後まで大変だった。

この時の彼は、殆ど小学生の時と同じだった。

どう見ても、大学生ではなかった。

彼の携帯は濡れて壊れかかっていた。

夜遅くなってくると、母から電話がかかってきた。帰れなくならないようにだとか、危なくないようにだとか、心配してもらった。

「そろそろ帰ろうかな」

確かに潮時だが、しかし我々は同時に、とても別れを惜しんだ。

「――オールナイトやらね?」

だが翌日の予定がある人にはオールナイトはさすがに無理だろう。

誰にも言ってない話というのを聴くのは初めてだった。胸に秘めておいた。なんだか少し感動してしまった。

終電という声が囁かれ始めたので、私は終電検索などをした。

Mul「○○へ行く終電、五十七分ですよー」

Q「○○○へは…」

Mul「ええと…」

Mul「○○○へは五十五分ですよー」

今考えると、何故この同じ方向の終電検索に差が生じたのかが少し疑問である。

Mul「ここを四十分くらいには出た方がいいかな」

最後は集まって線香花火をやって、そして花火は終わり、皆で駅へ向かい始めた。

K「なんで?なんで?なんで携帯壊れてるの?なんで俺濡れてるの?」

Mul「携帯は大丈夫だから、アドレス後でバックアップとっておいた方がいいよ」

駅へ向かう途中、

G「あーここが俺がバイトしてるところだから、もし近くまで来たら寄ってみて」

少し思ったことだが、思っていた以上に皆社会経験を積んでいる。

駅では、K君に私の切符を潰されたりして、しかもそれに対しても全く意識が向かない本人は

K「なんで?なんで川に落ちたの?なんで?」

と言い続け、ふらふらしていた。G君が居てくれなければ私一人では終電を逃したかも知れなかった。

そしてなんとか無事全員終電に乗り、K君を含む一部の人達と別れた。

最寄り駅に着いた。

「――ホームタウンだぜ!」

「お疲れ様でした~」

「この後ジョナいかね」

「とりあえず座りたい」

最寄り駅に着いた時点でいた十一人のうち、男子二人、女子二人はそれぞれ帰ることに決めて、別の方向へと帰って行った。

残るは男子七人。とりあえずジョナまで行こうか、ということになって歩き始める。

ジョナの前に来たとき、少し頭痛がしていた私は、帰るか帰らないかで迷った。

だが、こんなメンツで集まる事なんて滅多にないんだぜ、という言葉を受けて、よっしゃ、と私はジョナへ向かった。

七人の内、浪人仲間であった一人は、翌日授業があるということで、さすがにここで別れてしまった。

斯くして、六人はジョナに入った。

時刻は深夜二時頃。母からまた電話がかかってきた。今どこにいるのか、と聞かれ、最寄り駅の名を告げたらひとまず安心してくれた。

「まだ親起きてるの?!」

Mul「ああ、……」

なんだか母は臨戦態勢で構えているようである。起きている必要は無いのに……。これは早く帰らないとまずいのか……。

軽い食事をつまみながら、昔の話や、今の小学校の実体の話、暴露大会、今回の同窓会について、大学の話、彼女がいるかどうか、などいろいろと話した。

「掲示板消えて欲しくないよね」

「皆で何か書きまくってみようか」

結局早朝四時過ぎにジョナを出て、少し明るくなりかかっている空を仰ぎながら帰った。小学校の前も通った。

家に着くと、母が臨戦態勢のまま眠っていた。私は物音をできる限り立てないように家に入ったが、部屋に入るときに気付かれたらしい。

部屋に入って時計を見ると四時三十九分だった。

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2 Responses

  1. より:

    TITLE: Unknown
    俺がなんか悪者みたいですね

  2. Mulgray より:

    TITLE: いや
    決してそんなことはありませんよ^^;
    どう見ても私が悪者です……

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