平均値への渡航

本当に辛い状況でない限り、赦してしまう。耐えてしまう。
それは、確かに欠点だ。だが利点でもある。

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「結局駄目なのか。」

「中間に関しては全く完全に処置は無かった。」

「はぁー…?」

「どうして駄目なんだ。突然の事故とか病気とかで試験を休むことだってあるだろ。」

「その場合は証明書が出せる。証明書があるなら、」

「証明書は絶対必要じゃないだろ、」

「絶対必要だ。絶対にそれがないと認められない。」

「どうせ旅行に行きますって言ったんだろ。例え何と言おうが、もう向こうは遊びだと思ってるから聞く気にもならなかったんじゃないのか」

「違う。」

「最初に旅行だって言ったんだろ。だから、」

「言ってない。家族が海外に行くのに付き添いが必要だとして話した。その証明書もあるとして話を通そうとした。」

「…」

「この単位が取れないと来年も専門単位数を削ることになる。だから留年の確率が、」

「その論理はわかってる。」

「じゃあどうすんだ。」

「全体的に考えて出来る限り損害の少ない方法で解決したい。そのために試験日までいてそれから自分だけ後から行けないかと思っている。」

――――

「はぁ……。先生も真面目なら生徒も真面目だとこうなるんだな!どうにもならん!」

「…」

――――――――――――――――

例によって海外の件である。

簡潔に記せば、事態は解決した。



私は、初めての海外へは一人で飛び立つことになった。


異常なスケジュールの中、一人で直球の如く渡米する。それは、試験を受けた直後だ。


つまりは、試験は受け、海外にも行き、損害はできる限り抑え、母の様子も見る。
試験の予定は変えず、彼らの旅行の予定も変えず、私の不安も軽減する。
全てに於いて若干の無理が含まれ、その意味でどれも完全とはならないが、私らしい解決策だ。
何故ならこれが一番、全ての平均値に近いからである。
無論、予定を曲げることは不可能に近かった。そこには苦労もあり、さらには本当に奇跡が重なる瞬間を引き当てた。


友人と話していて気付いたが、普通は持ち物や言語などの心配くらいはするものらしい。
だが私には全くそのようなことを考える余裕はなかった。
行った先で何をするのかも、基本的には天に任せるしかない。

――――――――――――――――

私は恐らく考えられる限りの全ての手を尽くした。
表面上は却下していた策でさえも実際には試みはした。

おかげで幾らかは信用の失墜もあったかも知れない。
私は何故犠牲を払っているのだろう。そのように思うこともあった。


状況は完全な板挟みだった。
どちらかを折るしかなかった。
両方と戦わなければならなかった。

――――

或る程度まで試みたところで、選択肢は二つしかなかった。
自分が海外に行くか、行かないかだった。

この二つの選択肢から選ぶとなれば、私は恐らく行くことを選ぶ。
心を騙しながら、そして後に苦労することを覚悟して。
その先は恐らく全ての人を切り捨てる方向へ進む。

そして再び、連絡を絶つだろう。

――――

私は追い込まれると、無意識に周囲を切り捨ててしまう。
攻撃さえしてしまう。

だからこそ、そこからは絶対に誰にも救えない。
そうなってしまうことだけは避けなければならない。
しかしこのような状況下では、避けられた試しはなかった。

――――

しかし今回、避けようとする論理は私の無意識にも取り込まれていた。
流れの中で私はそれを感じ取ることが出来た。

――――

――――

選択肢は本当は他にもあった。ところがそれらはことごとく却下されたものだった。

私はその却下されたものに関して、心労を負いながら限界まで再試行を続けた。
今回の話は私にとって恐らくわかりやすいものだった。
だから行動方針の変更ができた。

――――

今の私ならやっと、高2に戻れば思い通りの受験勉強が進められる、と思うことができる。
本当にやっとだ。
少し前まで、どの時点の私をもってしてもあの状況下を切り抜けることは不可能だと思っていた。
それがやっと、切り抜けられる論理式に辿り着いた。

このことは、私の無念と絶望と後悔を、僅かだが癒してくれる。少しでも、変わることができたからだ。
ここまで来なければ、人の影響に流され過ぎないでいることは難しい。私はそういう人間だった。

ただ、それでも従来同様に、一人では生きていないだろう。

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