私は元々、他大学の院に進むことを視野に入れている。
正確に言えば、他大学の院に行ってみるのも良い経験になるのではないかと思っている。
そういう意味では、他大学に行かなければならない、という思考とも少し違う。
実は悪く言えば、学歴コンプレックスも確実にある。私が悲観的であったり自分に自信がなかったりするのにも、ごく一部はそれが影響している。この点では、周りに「できる人」がいなければいないほど私の苦しみを増加させる。
ここまでくると、例えあまり良い道でなくとも、苦肉の策として他大学でも経験を積んで自信を持ち直すことも一つの生き方だろうと思っている。
研究が大好きだと、口だけでも良いので、そう言っているような人々と一緒に行動してみたいという感覚がある。それもこの分野で。
そのためなら、どんな所にでも行ってみたい。
そこがもし、有名な所なら、なおさら一度は試してみたい。
そしてもし、仮にどんな所に行っても周りが「普通の人」にしか見えなかったのなら、それはそれで諦めが付く。
寧ろ、そういう場合には諦めが付けられるくらいに特別なところに行きたいと思う。
ただ、私が過去に思っていたほど特別な場所はそう簡単には存在しないということもわかってきている。情報以外の分野ならそうでもないかも知れないが、この分野だけはどうも特別のようだ。分野そのものがベンチャーなのである。
天下の○○大学でさえ、この分野だと、大したことでもないようなことを大々的に掲げていたりそれを使って起業までしていたり、さらには特許まで出願していたりする。
何のことを言っているのかはここでは言わないが、あんなもので特許がとれてしまったら後々大問題になるのではないか、と言いたくなるようなものがある。
夏の間は、他大学の研究室訪問をするために準備をしていた。
本当は、夏の間に訪問してしまいたかったが、私に経験と準備がなさ過ぎてできなかった。
無理矢理行動に移したところで、どんな体験をすることになるのかは目に見えていた。
だから私は、他大学に突入するにしても、せめてこの大学の先生との対話をまともにやり合える段階に持っていくことが必要だと思った。
それを最低の指標としようと思った。
この大学のこの学科の先生達は基本的に優しい。だから、本当は大半が対話の練習にならない。
何故か。それは就職予備校だからだ。
だが良く考えてみたら、それを踏まえた上で尚、こういう練習、経験をよしとしていそうな先生がいることに気付いた。
Nfy, bfy…(検索対策で省略)
T先生の授業やプレゼミで、「いつでも研究室に来てください」と何度も言われているので、一度くらい行ってみるかと思い、今日行ってきた。
一応、私はS研に行こうとする確率が濃厚で、今までに個人的に話しに行った回数もそちらの方が多い。
寧ろ、T先生と個人的な相談をするというのは今回が初めてである。
私の心積もりとしては、T研に行かない確率も十分にある中で、行くとしたらどうなるかを考える参考にするために相談をするといったところだった。
簡潔になるよう努めてメールを送ると、数時間もしないうちに返信があった。
約束の時間に先生はいらっしゃらなかった。
その間研究室の人と話していた。どうも初訪問にしては溶け込み易すぎて、はてと思って良く考えてみたら、銀鮭事務の方で時々お会いしていた方だった。
さらに少し後になると、銀鮭事務の方で私にとても良くしてくださる先輩の方も2人いた。さらに良く考えてみたらサッカーの方で仲良くさせて貰っている先輩も2人いた。
先輩の一人は私が4年生だと今まで思っていたらしく、驚いてもらえた。
先輩方には実にスムーズに、私が来た理由が伝わった。
先生との話に入った。
名前と番号を聞かれた。どうもメールだけでは駄目らしい。S研では名無しの研究計画書もどきでさえ受け取ってもらえたというのに。
まず先生は完全に、私をT研配属希望者だと思って話し始めた。
確か開口一番、「何しに来たの…」という感じの質問だった。
明らかに第一印象悪かった、とでも言うような雰囲気で始まる。
「言語処理に近いところの研究をしたいと思っています」
確かこんな感じの回答をしたと思う。
以下、うろ覚えの対話を記録する。但し、これは全対話のごく一部に過ぎない。
「成績は…?何番…?」
「真ん中くらいです」
「あぁ……。で。何がしたいの。」
「最終的には、いつかは、人間と同じような方法で言葉の意味を理解する物を作りたいと思っています、で」
「そんな簡単に言うけどさ、そんなことはそう簡単にできないんだ。あのミンスキー先生だって確証を持てないことだらけなんだから。あと言葉の研究だったらS先生の分野だよ。」
「はい。S先生にはこの話をしたとき、基礎的な分野の研究は形態素解析にしろ構文解析にしろ、やれそうなことは大体しつくされていて、難しいと言われ、手詰まりなところがあるということで、ひとまずは応用分野を考えるようになりました」
「そんなこと言ったらどの分野だって手詰まりだよ。応用だってそうだ。大体出来そうなことはし尽くされてる」
「そうですね」
「応用でどんなことをしたいと考えてるの」
「Web上の無数の情報の中から構造を見つけ出す、クラスタリングをするなどといったことです」
「Webのそういった操作なら木村研もやってるよね。」
「はい。」
「でもそれは言語処理じゃないよ。そこの彼も企業と一緒にウェブサービスのための分類研究をやっていて、大体似ているけど、彼は言語処理だとは思っていないだろうね。」
「そうですね。機械的な分類ですね」
――
「これは言ってはいけないことかも知れませんが、私はもしかしたら他大学の院を目指すかも知れません」
「もし他の大学に行くならやめて欲しい。それはお互いに不幸になるからね」
「うちは前々から言っているようにNfy, bfyなんだ。あそこにある本も皆、課題図書だよ。全然研究には関係ない本だけど、必要なことなんだ。それが私にはわかってる。だから企業の人も喜んでくれるんだ。」
「はい。とても重要なことです。」
「正直言って1年じゃ足りないんだ。3年あれば、なんとか教えてあげられることもある。そこを、頑張ってくれる人を育てたいんだ。他大学行ってしまうとリセットされるでしょう。研究大学は冷たいよ。この大学の強みは教育大学であるところだと思うんだ。私だって針の穴くらいの視野しかないけれど、それでも君たちよりは大きな針の穴だから、そこから教えてあげたいんだ」
「はい。」
「でもそうやってなんでもつつみ隠さず話せるようにしているんだ。君だってそうやって話してくれたから、私もこうやって本音を話しているんだ。」
「はい。そういう所にとても好感を持つことが出来ます。それはとても良いことです。」
「みんながまだ来てないから、どんな人が居るのかまだわからないんだ。人の生き方それぞれあるからね。他大学行きたいのだって、それはそれで構わないんだ。」
――
「君のセールスポイントは何」
「難しいですね。友達になら簡単に言えることですが、根拠立てて言うのはどうも。
…。
私は家にサーバーを作っています。小さなサーバーです。Linuxで組んでいます。
そこに、毎日決まった時間になると世の中のニュースやら何やらをAPIだの使って引き出して、マッシュアップしたもの、
さらに自分が必要だと思う物だけまとめて、携帯に送ってくれるようなものを作りました。」
「ふむ。作ったの。」
「はい。日々の情報探索に一々グーグルで検索するのもめんどくさい。だから、自動で情報を収集してくるようにしたんです。
…。
最近はYouTubeとかニコニコ動画とかありますよね。
ニコニコ動画の場合、映像と字幕のXMLが別々に存在していて、字幕データの方は時々刻々変化していくわけですが。
この字幕を映像に変換して、これを元の映像と合成して、それをエンコードして携帯に送るようなものも作りました。
携帯…いやこの場合はiPodに送ります。
LinuxでもiPodに直接USB経由のデータ転送ができるものが最近別の人によって開発されたのでそれを使いましたが」
「なーんだ、自分で作ってないのかい」
「転送の部分だけです。他は作りました。」
「作ったと。」
「はい。サーバーにクレイドルを付けるわけです。そこにiPodを挿しておきます。
朝、家を出るときにiPodを取ります。最新の映像があるわけです。
それも、欲しいようなものだけとってきてある。
自動で、これをやる。
セールスポイントとしては何でしょうね。
友達にもWebマッシュアップに興味を持っている人が居ますが、私はそういった人に対してなら、関連情報の付与を行うことができます。
またそれに必要なLinuxや言語の扱いなら…」
「Linuxが結構使えるってわけ?」
「ああ、はい。
私の小さな”針の穴”から見た限りでは、私が一番Linuxは扱えるという自負があります。」
「ふむ。」
――
「ええと何番だっけ。もうちょっと具体的に」
「72番とか、そのあたりです」
「ぎりぎりだなぁ。なんでそんなに低いの」
「元々通信工にいて、転科してきたんです。科目があわなくて。転科は1年から2年に上がる間にしかできませんから…それで、転科してきた時は130番以下でした。それが去年に100番台、そして今70番台となってきているんです」
「つまり今期で成績は50番台にはなるわけだ!」
「!…頑張ります!」(←最大の失敗。素直にはいと答えるのが模範解答。だが私らしさは出ている…?)
「まあじゃあ今回はこれくらいでいいかな。また次の時はなんか言うから」
「はい。今日はありがとうございました。」
大体こんな感じで進んだ。対話の直前に研究室の人と話していく中で、私の過去のどれがこの研究室の内容に近いかを、とっさに選んでこのような会話になった。
サーバーでマッシュアップサービスなんて、それ自体は大したことではない。ただ、このテーマで話せば、今進められている研究の一つに関連させられる点が見えるのである。
先生との対話はある意味ビジネス的な面接だった。主に企業と一緒に研究している研究室だからこそ、工夫するともしかしたらお金になりそうな、そういう可能性がある話を持ち出すと話が変わってくる。事実、今回の対話は途中から明らかに目の色が違って見えた。
また、実際に使う側から見てどのようなサービスになるのかといった話をする必要があることもわかった。ここにもまた企業らしさが伺える。
あと、「自分で作ってないのか」のくだりで、あまり技術のコアを認識されないことも見抜いた。
今更言い換えなくてもわかっているののだが、やはり先生はコンサルタントである。
その点でこの先生の強みは、人脈である。論文で例の企業の人が関わっていたりすると、その人知ってるからと、紹介をしてもらえることもあるということである。
対話で残念だったのは、話そうとしていたことの4割以下かもっと少ない程度のことしか話せなかったことである。
それまでに私が学会誌で調べたことも、読んできた本のことも一切触れなかった。
最後に研究室の人達と話してわかったが、どうも私が最初に突入してきた人らしい。見張っていたから間違いない、とのこと。
私は、他にここが第一志望の人が居るだろうからと、ここにはだいぶ日が経ってから訪問したつもりだった。
最後に、この先生に受け入れられやすい人を予想しておく。
女性は受け入れられやすいだろう。悪い意味ではない。律儀で真面目だからだ。男ならば先生を無視することも反抗することもあるような局面が、そもそも訪れにくい。
成績上位なら受け入れられやすいだろう。やりたいことがあるとかないとか本気で無関係だ。但し上位でも不真面目なら無理。上位で不真面目な人がいるのかわからないが。
成績下位ならやりたいことが必須だ。持っていなければ無謀。
さらに、早い者が優先される。やる気があると捉えられる。
この4行のうち、上二行はK研も同じである。
今回は良い練習になった。やはり私は全く駄目である。このまま他大学に突入しなくて良かった。
あと何回か話して、論文の議論ができるようになってから、突入したい。
しかしとにかく時間が惜しい。
本当に、どうすればいいのだろう。
優しい先生とも議論すれば回数は増えるか…?それでなんとかなるのか…?
蛇足だが、こういった場で結構意外と私はサッカーの方の宣伝をしている。来る学園祭で私も催す側として参加するからだ。
他の人も、興味があれば是非来て欲しい。
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